イヴァンは私の横へと来ると、テーブルに置いてあったグラスにお酒を注ぐ。
その色には見覚えがあった。

ドキリと心臓が跳ねる。

「え、っと、このお酒は……」

「ええ。あのときに飲んだお酒ですよ。大層気に入っていたようなので用意しました。遠慮せず今日もたくさん飲んで構いませんよ?……どうしました?」

私の顔色が変わったことを、ファリス様はすぐに気づいたようで、そう声をかけた。

ファリス様はよかれと思い用意したのだろうが、私としてはこれが原因で今の状況を招いた、いわば"いわくつきのお酒"だ。


もうお酒なんて飲まない、特にこのお酒だけはと心していたのに。
まさか早々にここで出されてしまうとは。

けれど、ファリス様がわざわざ用意してくれたもの。
それを断るのは失礼にあたる。


……どうしよう。
飲めない、飲みたくない。

また記憶を飛ばすようなことになってしまったら……。


私が無言でそのお酒を見つめたままでいると、ファリス様はまるで私の心情を悟ったかのように、優しく語りかけた。