だって、王太子様の囁く言葉は、思い人への愛の言葉ではないか。
私が王太子様と出会い、話をしたのはあのとき一回きりで、その後いたしてしまったのかもしれないけれど……。
でも、そこに愛などなかったはず。
"お酒"という魔力によって、互いに意志とは反して、行(おこな)ってしまっただけじゃないの?
唇を噛みしめ、王太子様を睨むように見つめる。
しかし王太子様は表情を変えなかった。
歪めた私の顔すら、愛おしそうに見つめているくらいだ。
「あり得ない、なんて無いのですよ。……忘れていませんか?あの夜のことを」
「それはあの……。正直記憶がなくて、なにがあったのか覚えていないのです。けれどこういったことは、たまにあることなのでしょう?お互い一夜の過ちで良いではないですか」
「でも、私はあれからずっとビアンカを忘れられませんでした。寝ても覚めても、あなたの顔がずっと脳裏に焼きついて離れないのです。そのたびに胸は高鳴り、身体が熱くなる。あなたは一夜の過ちと思っているのかもしれませんが、私には過ちではなく、運命の夜でした」
「運命の、夜……?」
「ええ。あのとき、私は恋に落ちてしまった。……愛しているのです、ビアンカ。どうか私の妻に。私の傍にいて貰えませんか?」
王太子様は私の手をとり、唇に寄せた。
柔らかな唇の感触が、手の甲に嫌というほど伝わる。


