その言葉には、悲しみも戸惑いもなく、ただ怒りがあるのみ。
そして、その傍らに寄り添うようにして立つ、コナーも髪をなびかせ戦う姿勢を見せた。


ぎゅっと手に力を込めていく。
そして静かに開くと、そこには光の珠が幾つか浮かんでいた。
コナーはそれを見つめてから、こくり頷きその光の珠をアリアから受け取る。
アリアとシィースラインが七色に放たれる光で互いに共鳴し合った。
アリアは、とても落ち着いた口調で、印を結ぶ。
それに合わせて、コナーがふっと手のひらに受け継いだ光の珠をケルベロスに向けて吹き掛けた。


「いざなおう。いなざおう。地獄の番人よ。この世の者ではないお前のことを。さぁ、この光の業火に身を包み、そのまま焼けただれてしまえ…本当の地獄を見せてやろう…」



今までとは違った文言で敵に向かっていくコナーに誰もが息を呑んだ。
その顔には一切の感情が、ない。
あるのは、冷ややかな視線とそれ以上の殺気のみ。


「さぁ…この詩に乗せ、お前を此処から消し去ろう…」


アリアは、胸元に両手を組んで当てて、祈るようにして瞳を瞑っている。
シィースラインはその胸元で強い光を放っていた。


熱い。
息苦しささえ感じる、そんな熱が周りに広がった。

そして、その熱がパンッと空気を割ったかのように、破裂する。
その刹那…。

ケルベロスは地を這うようなはがれた声で、


「アリアよ!貴様らの力ではあの方は止められぬ!止められぬぞ!」



と言いながら、消えて行く。

皆が無言になる。
目の前には何も、ない。

ただ、シューシューと気味の悪い蒸気が沸き立つ。
その跡に残った、一片の獣の毛だけが、さっきまでの戦いの激しさを物語っていた。


「ルーク…」


アリアは、涙を零さないように、上をわざと向く。
そんなアリアの右手には、ルークの残した金のバッチ…アザクシュベルの国鳥である大鷲が描かれたそのバッチが握られていた。


この先に、どれだけ悲惨な出来事が待っていたとしても…今は目の前に置かれた事態を飲み込まれなければならなかった。


それが、この一行の…いや、アリアのサダメであった。