「え? いえ、あのですからわたしは――
 

澪の返しに、海雨は焦っている。


こんな風な返事は考えていなかったのだろう。


「海雨ちゃんでもあるし、始祖当主でもあるんでしょ? 俺が知ってるのは海雨ちゃんだけだけど、それは始祖当主も含めた存在である『梨実海雨』ちゃんなんでしょ? お嬢さんみたいに、過去世の自分と全くの別人ではない。フッてもらってもいいよ。ただ、俺はすきでいる」


「で、でも澪さんは小埜家の一人息子だし、病院の跡取りって位置じゃないですかっ。奥さんとお子さんは絶対望まれますよっ」


「じゃあ海雨ちゃんが奥さんになって?」


「だ、だからわたしはもう誰も好きになることはないですってっ」


「それは暮無当主の操立(みさおだ)てでしょ? そもそも、一生の中でだって何人も好きになる人がいる方が多くない? 泰山府君祭を行うほど好きな人がいたってのがすごいと思うよ。

始祖たちを転生に閉じ込めたことを悔やんでるみたいだけど、真紅ちゃん、そのことを一言でも責めた? 暮無当主の旦那さんは、泰山府君祭を行ったことを責めた?」


「そ、それはそうかもしれませんけど~」


「始祖当主は、もうとっくに赦(ゆる)されてるんじゃない? 影小路の始祖たちにも、暮無当主の旦那さんにも」


「―――、~~~」
 

上手く反論も出来ずにいた海雨の瞳が、急に潤んだ。