好きになった子は陰陽師になった。ーさくらの血契2ー【完】



真紅の、奥歯を噛みしめていた力が緩んだ。黎の、その言葉一つで。


「ふぅっ……ううぅっ………」
 

真紅の嗚咽が大きくなると、声ごと包みこむように抱きしめる黎の腕の力が強くなった。
 

海雨は、ずっと始祖当主だった。


真紅のことも、桜木の名前の頃から影小路の娘と知っていたはず。


やがて真紅が影小路の姫としての力を取り戻すことも。


――総て知っていながら、総て隠して、『梨実海雨』として生きていた。
 

海雨自身、辛かっただろう。


『真紅』の魂をずっと知っているのに、何も語ることが出来なかった。
 

これまでの転生たちは、自身が転生であること、始祖たちが犯した罪を知っていた。


だが、傍らに生まれる始祖当主は、何も知らない徒人だと思っていた。


だから、転生たちは始祖当主と過去を回顧(かいこ)するようなことは決してなかった。
 

始祖当主の方が、大きな秘密を抱えていた。


(暮無(くれない)さま……)
 

ずっと、始祖当主を護って来たと思っていた。


それは、ただの独りよがりだったかもしれない。
 

……声を押し殺して泣く真紅を、黎はただ抱きしめていた。


真紅には十分すぎる居場所だった。