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『真紅』
真紅は自分を呼んだ声が、一瞬誰のものかわからなかった。
辺りを見回すと、真っ暗な中に光を纏ったように浮かんだ姿があった。
『ご当主様っ!』
纏った衣が、遙か以前のもの。真紅の知る、最初の主。
真紅が駆け寄ると、彼女はすっと右手を前に出して、近づくなというような動作をした。
その行動に、真紅は足を停めた。
『真紅、ごめんね』
始祖当主の姿で、その声は、言葉は海雨のものだった。
真紅に戦慄が走る。
まさか――二人が同化してしまったのか?
今、真紅は術式をもって海雨の内部に這入りこんでいる。
海雨にはりついている妖異の残滓を消し去るために。
いわば、今、真紅は海雨の精神体内に居ることになる。
『海雨? ……ご当主、さま?』



