(来たことはないはずだけど……妙に気になる)



 必死に記憶を辿るが思い出せない。

 孤児院にも、教会にも特別な思い出はないはずだ。



「少し降りて見てきても良いですか?」


「私は構わないが、早く帰らなければ家族に心配されるのではないか?」


「今更です」



 馬車を止めてもらい、アリシアは外に出た。

 建物に近づこうとすると、草がスカートの中でチクチク足に刺さる。


 それでも何とか前まで来ると、力を込めて戸を押した。ギイっと鈍い音がして開く。

 中を覗くと、部屋もすっかり荒れているのがわかった。



「人の手が加わっていないと、ここまで荒れるものなのだな」



 アリシアの後をついてきたイルヴィスが、そう言って眉をひそめる。


 しかしアリシアは、教会の中の荒れ具合とは別のところに目がいった。



(あのステンドグラス……)



 霞んだステンドグラスは、近くで見るとかろうじて模様を見ることができた。

 ああそうか。一人納得して息をつく。


 引っかかるはずだ。だってこの孤児院は──