車内はしばらく無言だった。

 イルヴィスは静かに外を眺めていて、話しかけるタイミングがつかめなかったのと、一日遊び回った疲れとで自然とそうなってしまうのだった。


 馬車の中でガタガタと揺られながら見える風景は、実際に歩いた時とは別の世界ではないかと思えてくる。

 車窓を流れていく風景は綺麗で、歩く人々の楽しそうな笑い声が聞こえる。



「あら……?」



 アリシアは、外を見ていてふいにある建物が目に映り、思わず声をもらした。



「どうした?」



 静かだったイルヴィスが、アリシアに視線を投げかける。



「あの建物って、教会ですよね?」



 アリシアがこんな風に自信なさげに確認するのは、その建物があまりに荒んでいたからだ。

 霞んだステンドグラスのある建物にはツタが絡みつき、周囲も雑草が伸び放題。暗くてうっそうとした感じが、長らく人の手が入っていないことを物語っている。



「ああ、あれは5年ほど前まで孤児院だった場所だ。移転して使われなくなった教会を利用していたそうだ」


「孤児院だった、ということは、今は経営していないんですね?」


「財政難だったらしい。あまり詳しくは知らないが」



 アリシアは、そうですか、と答えながらも奇妙な胸騒ぎを覚えた。