「昨日は本当に、ありがとうございました」


どうしても感謝を伝えたかった。

自分を探してくれたこと、見つけてくれたこと。セレスティーナを怒ってくれたことも。クラリスは心から感謝している。

けれどその気持ちを伝えるには言葉じゃ足りなかった。

それでもランティスは王族で、何でも手にしようと思えばできる立場にある人だ。それに引き換え平民であるクラリスは財産もなく、日々働くことで精いっぱいな身。

そんな自分にできることは茶菓子くらいだろうと思い当たったのが今日の朝。

ジェラルドにもらった栗を使って自分でお菓子を作ることにしたのだった。結果から言えば料理長が作るようには
上手く作ることはできなかった。

せっかくの大きな栗だったのに、皮むきに失敗したり煮込むうちにボロボロになったり。とても陛下にはお出しできないと思ったけれど、食べてもらえなくても良かったのだ。自分の気持ちが伝わればそれでよかった。


そのことを説明し終わっても、ランティスは未だにマロングラッセを見つめている。


「そうか、きみがこれを」

そしてさらに添えたフォークを手にするのを見たクラリスは慌てて止めに入る。


「ら、ランティス様!無理して召し上がらなくて結構です!」


けれどランティスはそんな言葉を無視して口に運ぶ。

クラリスは緊張で倒れてしまいそうなほどだった。どくどくと心臓はうるさく鼓動している。


「参ったよ、クラリス」