国王陛下の極上ティータイム

自室に戻る途中に寮があるとランティスは言ったが、それが嘘であることをクラリスは既に見抜いていた。明らかに遠回りになる。分かっていたのだが、それを言っても「もう送ってるし、今更言われてもね」とランティスがすました顔で言って取り合ってはもらえなかった。

寮の玄関の前で、クラリスは2人と向き合った。


「今日は本当に災難でしたね」

「もう城内で危ない目に遭うことはないと思うから、今日はゆっくり休んで」


2人はそう言うと城の中へと戻って行く。

遠ざかるその背中をクラリスは必死に呼び止めた。



「ランティス様!」


ずっと言おうと思っていた、けれど言えなかったことがあった。何度も言おうとしたけれど言う時期を失って言えなかった。

クラリスに名前を呼ばれたランティスは驚いて振り返る。

いつもの作り笑顔のような表情とは違う、驚いた顔をしたランティスを見て、クラリスの緊張はさらに高まる。ぎゅっと拳を握って、クラリスは大きく息を吸った。


「助けてくださって、ありがとうございました」


ランティスは面食らったように目を見開いた。まさかクラリスがそんなことを言うとは思ってもいなかったのだ。

さらに握られている拳が微かに震えていて、この言葉を言うことがクラリスにとってどれだけ勇気のいることか思い知った。それなのに全く緊張を顔に出そうとしないそのいじらしさにも、ランティスは愛しさが増す。

ランティスは笑ってこう言った。


「また明日」


それが立場も身分も違う2人をつなぐただひとつの言葉だった。