ランティスは力なく笑う。まるで自分をあざ笑うように。

「どうして…」

「きみが、大切だからだよ」

ランティスの宝石のような緑の瞳がクラリスを捉えて離さない。

「そ、それは…」

使用人として、ですよね。そう聞き直そうと思ったクラリスの言葉に重ねるようにしてランティスは言う。


「俺にとってきみが特別だと、そういう意味だよ」


いよいよクラリスの心臓は強く速く脈打ち始めた。自分でも鼓動を感じるほどに、胸が切なく痛む。

「ご、ご冗談を…」

そう言って顔を背けようとするクラリスに「本当にそう思う?」とクラリスは問いかけた。


「きみを探し出してそんな冗談を言う、そんな男に俺は見える?」


クラリスは目を見開いた。戸惑い、驚き、色々な感情が渦巻いて喉を塞いでいるようで、何も答えられない。

あまりにも美しい人が真っ直ぐに自分を見つめている上に、お互い何も言わないので、まるで時が止まったような感覚さえしていた。

「ら、ランティスさ…」

ランティス様、と戸惑いながらもその名を口にしようとしたときだった。


「ランティス様ー!」


小さなクラリスの言葉に被せるように、ランティスを呼ぶ声が遠くから聞こえてきた。

その声でクラリスはランティスから目を逸らして俯き、ランティスはふっと眉を下げて「ディオンだな」と小さく笑う。