「きみに傷のひとつでもついていたなら、俺はきみを傷つけたものと自分自身を許せないだろうね」

その大きな手で、クラリスの頬を愛しく撫でる。自分の手とは違う、骨ばったその手にクラリスの心臓はまた音を鳴らした。

ランティスの言葉は、やはりよく分からない。言っている意味が分かっても、その思惑が分からないのだ。言葉遊びか、からかいか、本心か。真実か嘘かさえも判断できない。

この人の言動は宙を浮いているようで掴めない。だからこそクラリスは反応に困っていた。


「どうして、こんなところに閉じ込められていた?」


真剣なその問いに答えるのは、いかに冷静沈着で正直者のクラリスでも憚られた。

穏やかなのに少し怒りを含んだようなランティスのこの様子では、きっと犯人もその理由も全てお見通しなのだろう。

「…ランティス様、私の質問にまだお答えになっていません。お教えください。どうしてここにいらっしゃるのですか?ランティス様がこんな夜更けに外を歩いて、賊にでも出会ったらどうするのです」

するとランティスは目を見開いて、それから「やっぱり、きみは手強いね」と笑った。

「賊に出会ったら斬るだけさ」と言ってから、少し真剣な目をして「セレスティーナが茶を届けにきた」と言った。

それからランティスは事情を語り出した。