「どうして、貴女が陛下にお会いできるのに私はできないの!ああ、腹立たしい!陛下にお会いした貴女が腹立たしいわ!」


怒りの矛先を向けられたクラリスは手を振りほどけないままだった。このまま無理に手を放そうとすればこの姫が何をするのか見当もつかない。その上、怒りのせいか腕を掴む姫の力が強く、無理に引きはがすこともできないほどだった。

姫は怒りのままクラリスの手を引いて王宮内を突き進んでいく。


「セレスティーナ姫!どちらに向かわれるのです?」


そう尋ねても姫の口から出てくるのは「陛下、私はこんなにもお慕い申しておりますのに」というランティス陛下への愛だけだった。

セレスティーナ姫の国であるリゼルタ国とは交流が盛んなようで、隣国の王族の方々も頻繁にこの城に訪れるらしい。姫も幼い頃から何度もこの城に訪れているのだろう、ついこの前城にやってきたばかりのクラリス以上にこの城を知り尽くしている様子だった。

姫はどんどん城の奥まったところへと突き進んでいく。

そしてようやく足が止まったかと思うとクラリスの方を向き直り、口の端を上げてにこう言った。


「貴女、お茶係よね」


クラリスは何を聞かれているのか分からないまま「左様にございますが」と答えた。


「陛下は貴女にお茶を頼んだのでしょう?」


「え、ええ…」


そう答えてから、まさかと一つの可能性が頭を過る。


「貴女に代わって私がお茶を淹れて差し上げますわ」


「私も茶を淹れるのは得意ですもの」と笑う姫が恐ろしくて、クラリスは冷汗をかいた。それだけでは終わらないような、そんな嫌な胸騒ぎもした。


「だから貴女がいては困るのです」