「セレスティーナ姫…?」

いかがなさいましたかと聞こうとしたクラリスの言葉に被せるように「陛下とお会いしたの?」と強く言い放つ。

「陛下から茶を頼まれまして…」


「お会いしたのね!」


セレスティーナ姫は怒りで我を忘れているようだった。これは逃げた方が良いだろうと直感的に思うのだが、その目がしっかりとクラリスを捉えているため離れることができない。


「私でさえ、姫である私でさえ、お会いできないというのに!たかが侍女の貴女がお会いできたなんて…許せない!」


一歩、また一歩と近づいてくる姫から離れる様に、クラリスは少しずつ後ずさりをする。


「セレスティーナ姫、落ち着いてくださいませ」


なんとかなだめようとする言葉すら、怒る姫には届かない。

恋は盲目と、誰かが言っていたけれど、本当にその通りだとクラリスは思った。セレスティーナ姫にはきっとランティスしか映らない。ランティスの言葉しか届かない。


「どうしてたかが侍女の貴女が!」


姫に距離を詰められ、しまったと思ったが最期、腕を掴まれてしまった。

振りほどこうにも相手は隣国の姫だ、手荒な真似はできない。

衛兵に助けを求めようにも、相手は隣国の姫。クラリスはただの侍女。衛兵も苦しい表情でクラリスを見つめていた。

「セレスティーナ姫、どうか手をお放しください!」