ブランが茶室から出て行くのを見送り、姿が完全に見えなくなったところでブランから手渡された本に目を落とす。

読み進めるうちに驚いた。ハーブティーは茶と薬の間のようなもの。それぞれ使うハーブによって効能も違ってくるらしい。

面白い、と思っているとペンで走り書きのように書き留められている文章に気づく。

【ローズヒップ】のページには蒸らし時間5分と書かれているところが【8、9分】と訂正されており、さらには【砂糖スプーン2杯で程よい甘み】と付け加えられている。

おそらくブランが何度も何度も試すうちに導き出した、ブランにとって最善の茶の淹れ方なのだろう。

この本はブランの努力の塊だ。いつも澄ましてどこか冷めているようにも見えるブランだけど、ずっと努力を続けてきたのだろう。それが実って、認められて、今は王宮のお茶係という立場にいるのだ。

努力の仕方も、ここにいたいという熱量も、きっと自分とは違うのだろう。到底及ばない。自分がここにこんな気持ちでいることさえも恥ずかしく思えてくる。

それでも同時に胸が熱くなる。こんなにも熱い思いを持つ人と働けるのだ。自分ももっと勉強していかなければ。こんなにも努力をする人の下で働くのだから。

クラリスは食い入るように、焼き付ける様に、頁(ページ)を捲った。

自分も負けていられない。ブランに近づきたい。

その気持ちがクラリスの反骨精神を焚きつける。