オルレアン伯爵家では旦那様のことを名前で呼ぶなどしなかった。むしろ考えられないことだったし、考えたこともなかった。

それなのに、国王陛下のお名前を呼ぶなんて。

しかしながら陛下にここまで言われて従わないわけにもいかない。

これは命令なのだ、名前で呼ぶよう、陛下が命令していらっしゃるのだ。クラリスはそう思い込んで「かしこまりました」と答えた。


「ランティス様」


恐る恐るそうお呼びすると、陛下はにっこり笑って「ん、よくできました」と仰った。

ランティス様と、そうお呼びするのは初めてのことだ。それなのになぜだかすんなり心に落ちてきて、そう呼ぶのが当たり前であるかのような、そう呼び続けてきたような、そんな不思議な感覚がクラリスの全身を駆け巡っていた。