それを聞いたディオンはぽかんと口を開き、陛下は笑った。


「はは、それでこそクラリスだ。王宮に来てもらった意味があるというものだよ」


それからクラリスにこういった。


「明日からもブレックファストを頼むよ」


こんなに苦いものでなくていいけれどね、と付け加えた陛下にクラリスは「かしこまりました」と頭を下げる。


「でしたら陛下の目覚めを良くしてください。時間が経つほどに茶の風味は落ちますから」

「心得ておくよ」

陛下は笑って、それから「もうひとつ、いいかな」とクラリスに言った。


「俺はさ、『陛下』って呼ばれるのが好きではないんだ。よく会う人物には特にね。だから名前で呼んでくれないかな?呼び捨てでも構わない」

クラリスは咄嗟に「ご冗談を」と言った。


「名前でお呼びするなど、そんなことはできません。まして、呼び捨てなど」


顔をこわばらせるクラリスを見て、ディオンは「そうですよね」と頷いた。


「ランティス様のお名前をお呼びすることなど、王宮の使用人にとっては恐れ多いことなのですよ」

「そういうものなのか」

「そうでございますよ」と言うディオンの言葉に陛下はまだ納得していない様子だった。

「でもなあ、俺は嫌なんだけど」

「そう仰られましても」

「ねえ、頼むよクラリス。名前で呼んで?」

国王陛下にそう言われて、クラリスはなんて答えればよいのか分からなかった。