「せっかくの茶です。冷めないうちにいただきましょう」

国王陛下が笑顔で言うのだが、「お待ちください、陛下」と衛兵が止める。


「王宮使用人ではない者が淹れた茶など、毒が盛られているやもしれませぬぞ!」


その声で応接間は殺伐とした空気に包まれた。

厳しい表情でクラリスを睨みつける衛兵に、クラリスはまた苛立った。

何と言って反論すべきかと考えていた時、隣にいたブランが言った。


「クラリス殿は毒など盛ってなどいませんよ。私がずっとクラリス殿の傍にいて見ておりました」


部屋中の視線がブランに集まる。


「ブラン殿、それは本当ですか?」


訝しい目をする衛兵に「もちろんでございます」とブランは答えた。


「もしクラリス殿が毒を盛れば、クラリス殿の主人であるオルレアン伯爵家に泥を塗ることになる。それが分かっていながらそのようなことをする使用人はどこの世界にもいないと思いますが」


それを聞いた王太后が「そうですね」と頷いた。


「私がこの方を招いたのです。この方には毒を準備する時間などなかったわ」

「し、しかし」


なおも食い下がる衛兵に「全く貴方も頑固ね」と王太后は溜息を吐いてティーカップを持った。


「それなら実際に飲んだ方が早いでしょう。クラリス、いただきますわね」


クラリスは頭を下げる。衛兵は「お待ちください、陛下!」と慌てて止めようとする。

そんな衛兵の制止を無視して王太后は一口飲んだ。