「なるほど、ビスケットか」

調理場からの帰り、ブランは用事があると席を外してしまったのでクラリスは一人考えながら歩いていた。

料理長の話では午後の菓子はビスケットだそうだ。ビスケットに合う茶は、きっとすっきりしたエメのストレートだろう。

しかしエメには後味に少し渋味があるのだ。

それもエメの美味しさのひとつではあるが、苦いものがお嫌いな王女にそれをお出しするわけにもいかないだろう。

しかしだからといって癖のないキームでは味気ないし、物足りない。なによりビスケットには合わないのだ。

さて、どうしたらよいか。


「そこのお嬢さん」


クラリスを呼びかける声が聞こえて振り返る。するとそこには美しい金色の髪の、端整な顔立ちの男性が回廊の窓辺に腰掛けていた。優雅で気品のある雰囲気を纏っていて、思わず目を奪われてしまう。


「何か私にご用でしょうか」


クラリスがそう尋ねると、男性は「用がなければ話しかけないね」と笑った。

目を細めただけの笑顔がとても素敵な男性で、きっと他の侍女達が見かければ黄色い悲鳴でもあげそうなくらいだが、生憎クラリスにはそのような考えはこれっぽっちも浮かばなかった。

それどころか今は午後にお出しする茶について考えたかったため時間が惜しく、人と話すことさえしたくはなかった。


「お嬢さんはどこかのご令嬢なのかな?」


ふざけたことを聞く人がいるものだと思った。

どこかのご令嬢ならば、王宮の中でも使用人しか通らないような、こんな場所でひとりいるわけがないだろう。