クラリスはほとんど怒っていた。何の配慮もないブランの言葉に苛立ちと恥ずかしさを隠せなかったのだ。

一方でブランは何を怒っているのかさっぱり分からないとでも言いたそうな顔をしていた。


「何も可笑しいことはないだろう。2人は恋仲なのだから」


クラリスとランティスが恋仲だという話は瞬く間に広がっていった。

ランティスは病床だがこの国を治める国王陛下様だ。大してクラリスは王宮付きお茶係、ただの使用人でしかない。

そんな二人が恋に落ちたという話はクロードを筆頭に国王陛下の傍の人々からは嫌悪感を丸出しにされているが、ディオンを始めとした多くの人々に受け入れられていた。

ランティス曰く、クラリスがこの国とフォルト国との仲を取り持ち、危機を乗り越えたことが評価されているらしかった。

おかげでクラリスは疎まれることはあっても、お茶係を辞めさせられたり虐められたりといった直接的な被害は受けていない。

自分のしたことはただフォルト国王と話をしただけだ、そんなにすごいことをしたわけではないのに、とクラリスは周りの評価に戸惑いを隠せなかった。


「だとしても無理です。ランティス様が召し上がるものは薬室が管理しているのですよ」

「ブランさんもご存知でしょう?」と言うと、ブランは「ああ、分かっている」と答えた。


「だが、会いに行ったらどうだ。ランティス様がお風邪を召してから、一度もお目にかかっていないのだろう?」