アルベルトは目を見開いたままクラリスの言葉を聞いていた。まるで信じられないと言わんばかりの表情をしていた。

確かに信じられないかもしれない。ランティスがこんな裏切りを受けてもなお自分を信じているのだと言われても、そんなことあるはずないと思うのが普通だ。

けれどそんな信じがたいことでも、本当にランティスは思っているのだ。ランティスは今もなおアルベルトを信じている。


「し、しかし、それでも本当のことは言うわけにはいかない。本当のことを言えば、ランティスを、この国を巻き込んでしまう。この国を危険な目に遭わせてしまう」


アルベルトは苦しそうに言葉を吐き出した。その両手は拳が握られている。

この人もきっと優しい王なのだとクラリスは思った。同盟相手のことを思うからこそ何も言わずにいた。自分を悪者にしようとした。

類は友を呼ぶというが、ランティスとアルベルトは本当に似た者同士だとクラリスは思った。


「それでも言うべきです。ランティス様はそれを望んでいます。例えそれが自分を傷つけるものであっても、本当のことは言ってほしいと願っているはずです」


クラリスは一歩前に出てアルベルトの瞳を見つめた。ランティスのエメラルドの瞳に似た、サファイア色の美しい瞳。


「ランティス様は貴方様のことを親友だと呼んでいました」

「親友…」

「貴族の方々が友と呼べる存在を持てることはとても珍しくこれ以上にない幸せなこと。王族の方にとっては、尚更」

「だからどうかお願いします」とクラリスは頭を下げた。


「どうか貴方様のご親友をこれ以上傷つけないでください」


夜風がざあっと吹き抜ける。

アルベルトは目を見開いてクラリスの言葉を心に刻みつけていた。