「今は、そっとしておきましょう」

ディオンは静かに言った。


「ランティス様は、必ず答えを出します」


静かだけれど芯のある答えにクラリスは頷いた。そしてランティスに想いを馳せた。


「ええ、信じましょう」


我らが王は、誰にでも優しく、そして誰より強い。





茶室に戻るとブランが茶の評判について尋ねてきた。よほど心配していたのだろう、クラリスは「大丈夫でしたよ」と笑って答えた。

「ただ、茶を飲むような雰囲気ではなくて…」

ブランはクラリスが持ち帰ったポットのふたを持ち上げて中を覗き込んだ。冷たい茶が鈍く反射する。

「そうか」と目を落としたブランは呟くように返事した。

「いや、対談の時にランティス様が席を外したと聞いた。茶が不味かったからかと心配していたのだが、そうでもなかったのだな」

「…ええ」

クラリスは返事をしながらもあの時の様子を思い出していた。茶を頼んだランティスの表情、言葉、雰囲気。フォルスト王の表情、言葉。

そこでクラリスははっと気づいた。

見覚えのあったフォルスト王のあの表情は、いつの日かランティスが見せていた表情。本当の気持ちを押し込んで無理矢理に表情に仮面を張り付けたそういう顔だと。

そしてランティスはそのことに気づいていないことにも気づいてクラリスは目を見開いた。

ランティスの思っていた通りだったとクラリスは思った。フォルスト王には何かしらの理由がある。理由があるからこそ行動をとったのだ。決してランティスやこの国を憎んでしたことではないはずだ。