「ご苦労様」

運んできた男性に王太后は微笑んで、それから「紹介するわ」とクラリスの方に振り返る。


「彼が王宮のお茶係ブランよ。ブラン、こちらはオルレアン伯爵家の侍女のクラリス」


クラリスより6つは年上に見えるブランは容姿の整った男性だった。クラリスの顔を真っ直ぐ見つめて「ブランです。以後お見知りおきを」と礼儀正しく頭を下げる。

クラリスは立ち上がって慌てて「オルレアン伯爵家より参りました、クラリスと申します」と頭を下げた。


「クラリスはとても茶を淹れるのが上手でね。先日オルレアン伯爵家を訪れたときに、それはそれは美味しいカンコートのグレーズを頂いたのよ」


うっとりとした表情を浮かべる王太后の言葉を聞いたブランは「ほう、左様にございますか」と非常に興味深い様子でクラリスを見つめた。


「王太后様がそこまで仰られるというのであれば、なおのこと。私も是非一度頂いてみたいものです」


その言葉にクラリスは背筋が背筋が凍り付く。まるで品定めされているようなそんな気持ちになる。


「今日はクラリスに、午後の茶を淹れてもらおうと思っているのよ。国王陛下と王女もお呼びしようかと思ってね」


ブランは目を見開いて「国王陛下も、でございますか」と言葉を繰り返す。


「ええ。貴方もご一緒にいかが?」

「いえ、私はまた別の機会に」

「まあ、つれないのね」


王太后は「残念だわ」と肩を落としたが、王太后に王女、さらには国王陛下まで出席される茶の席に、ただの使用人であるお茶係が参加するなど場違いにもほどがあるだろうとクラリスも思った。

そんな場所に参加するのは命令でもない限りできるはずがなく、そうでないなら余程の身の程知らずにちがいない。