「ありがとう、クラリス。貴女とお話できて良かったわ」

ありがとうと言われてクラリスは「勿体ないお言葉です」と頭を下げる。

「前王との惚気話もまた聞かせてください」

「ええ、少し恥ずかしいけれど」

王太后は「御馳走様」と立ち上がって侍女を呼ぶ。今からおめかしするのだろう。嬉しそうな表情がそれを物語っている。

食器を台車に乗せて王太后のお部屋を退室しようとしたときだった。

「クラリス」と王太后が部屋を出て行くクラリスを呼び止める。


「貴女も恋をしているの?」


「え…?」

クラリスはあまりのことに動きを止めた。

「最近、貴女が身に纏う雰囲気が変わった。ずっと可愛らしくなったように思えるわ。大切な人がいるのね」

何と答えたら良いか分からず、クラリスは思考を巡らせていた。

今ここで自分が答えても良いのか?それも、ランティス様の母親である王太后様に?

けれどクラリスが何も答えずとも王太后にはクラリスが恋をしていると分かったようで、「素敵なことね」と微笑むのだった。


「叶うといいわね」


クラリスは何も言えないまま頭を下げる。

本当は叶うはずがなく、叶って良いはずのない恋。その存在さえ誰にも知られてはならない。


「失礼致します」


クラリスは扉が閉まる最後まで笑みを顔に貼り付けていた。