「恋、ですか」

「そう、恋」


王太后は美しい所作で紅茶を一口啜る。その動作の一つ一つはランティスのそれと重なって見えて胸が締め付けられる。


「確かに、そうですね。ローズヒップティーの水色は赤色。恋の色ですから」


胸の痛みを押さえつけてそう繕うクラリスに、王太后はふわりと微笑む。

その優しい笑みはランティスに似ていた。否、ランティスが彼女に似ているのだ。


「そうね。水色もそうだけれど、私は味も似ていると思ったわ」


「味、ですか?」と首を傾げるクラリスに王太后は答えた。


「酸味と苦み、それから蜂蜜の甘味。ね、恋にぴったりでしょう?」


甘味は、どうだろうか。クラリスは恋の甘さを知らない。

気付いた時には残酷とも言える現実が待ち構えていて、すぐに諦めなければならなくなってしまった。恋と気づく前の感情はどれも不完全で曖昧で、思い出そうにも夢のようなのだ。


「このお茶をいただくと、いけないわね。前王のことを思い出してしまうのよ」

ごめんなさいね、と眉を下げて微笑む。


「いえ、とても良いことだと思います」


クラリスははっきり申し上げた。


「王太后様がそのように思い出されると前王がご存知になれば、きっとお喜びになると思います」


王太后は「ありがとう」と微笑む。


「前王と出会ったばかりのとき、初めて一緒にお茶をしようと誘われた時に飲んだのがローズヒップティーだったわ」

「そうでございましたか」とクラリスは相槌を打つ。