本当は離れたくなどなかった。離れるのが最善などと、そんなこと口にしたくなかった。

身分違いの恋、身の程知らずと罵られても、これ以上が許されなくても、それでもお茶係として側でお茶を淹れることだけは望みたかった。

茶を淹れること、それがクラリスがここにいる意味であり、理由であり、仕事であり、存在価値だ。

けれどそのせいでランティスが危険に晒されるのなら話は別。

クラリス個人の判断ではない、王宮お茶係として判断しなければならない。


「はい。もうお茶も直接お持ちしない方が良いと思います。接触は避けるべきかと」


感情は押し殺した。

必死に押さえつけて、顔には表情が出てしまわないように。無表情でいることは得意なはずだ。

ランティスはしばらくクラリスを見つめて、それから溜め息混じりに 「そう」と呟いた。


「そうか、分かった」


泣きたくなった。