「どうした、改まって」


ランティスは微笑む。けれど確かにクラリスの異変に気づいているらしかった。


「俺、城の者に陛下って呼ばれるのが嫌いって言っただろう?」


「陛下、私はクロード殿の言葉に嘘はひとつもないと思っています」


ランティスもディオンも目を見開いた。クラリスが何を言わんとしているのか、二人とも気づいたようだった。


「今、この国は危機的状態にあるのでしょう。そんな中、陛下を更に危険な目に遭わせたくなどありません。そしてその原因もなるべくなくしたい。貴方こそが国王に相応しいのに」


最初はこんな人が国王だなんて、とクラリスは思っていた。けれど接していくうちにこの人こそが国王に相応しいと思った。

地位を持ちながら、民一人一人を大事に思える人はそうそういない。


「私が陛下を危険に遭わせる原因になる可能性があるのなら、私は離れるしかありません。それが最善で最良の選択です」


そう口にすると、クラリスの胸の中にせ切なさが込み上げてきて締め付ける。

クラリスはそれ以上口を開こうとはしなかった。もしこれ以上何か言えば、本当はそんなことなどしたくないと、叫んでしまいそうだった。


「クラリス…」

ランティスに直接名前を呼んでもらえるのもこれが最後になるだろうとクラリスは思った。

聞こえてきた声を焼き付けるように、胸に留める。


「お前は本当に、そう思っているの?」


ランティスの瞳は宝石のようだと思っていたが、今はまるで矢のようだ。

心の中を見透かされているようにすら感じた。


「お前が離れていくことが俺のためになると、本当に?」


クラリスは口を噤んだ。