「は、はい。左様にございます」

「お待ちしておりました。王太后様がお待ちです」


王宮侍女は貴族でもないクラリスに様を付けて呼ぶことに違和感など微塵も感じていない様子で、そそくさとクラリスを王太后様のもとへ案内する。

クラリスはこのような侍女の対応に酷く困惑しながらも、王太后が待つ応接間に向かう。応接間の室内に入ると、ゆったりとソファに座った王太后が優しい笑顔で出迎えてくださった。


「クラリス、待っていましたよ。よく来てくれましたね」


「本日はお招きいただきましてありがとうございます」


頭を深々と下げると「さあさ、顔を上げて」と言われる。

顔を上げると穏やかに笑う王太后の顔が見えたが、部屋の隅に4人の騎士が厳しい顔でクラリスを見ていることが分かった。

もちろん客と扮して王太后を襲う輩が出てきたときのために常に警戒しているということもあるのだろうけれど、この表情では伯爵家侍女という立場のクラリスが王国で最も位の高い王太后様からお城に招かれた上にお目通りしているということを訝しんでいるのだろうとクラリスは思った。

それはクラリスも疑問に思っていることなので彼らがそう思うのも無理もない。


「オルレアンでは貴女がお茶係だそうだけど、王宮にもお茶係がいるのよ。今用意させているわ」


「ぜひ召し上がって」と王太后様の隣のソファに案内される。

クラリスが戸惑いながら席に着くと、見計らっていたように扉が開いて、お茶が運ばれた。


「お茶をお持ちしました」