ランティスはきっぱり言い切るが、クロードは「そうは思わぬ輩もいるのだ」と言う。


「お前はこの国きっての切れ者だ。お前しか国王は務められない。そのお前が自分から隙を作るな、それもこのような時期に。いつその隙を突いて、お前を国王の座から引きずり下ろそうとしている貴族連中が動き出すか、敵国が襲撃してくるか分からないのだぞ。お前は敵が多いんだ」

「ああ、分かっている」とランティスは低い声で頷いた。


「敵になるやからには容赦しない」


その言葉で場が凍り付くようだった。

いつもあの温厚なランティスが言ったとは信じられないほど、低くて冷たい言葉だった。


「分かってくれているならいい」


それだけ言うとクロードは執務室を後にした。

クロードが出て行った後の執務室はしんと重たい沈黙が鎮座していた。息をすることさえ憚るほどの静寂だ。


「本当、堅物だな、あいつは」


沈黙を破ったランティスは溜め息を吐いて茶をすする。さっきまでの雰囲気はどこに行ったのか、いつもと変わらない穏やかな雰囲気を身に纏っている。


「黒の騎士団団長になっても心配性は変わりませんね」

「どうもそのようだ。過保護というか、何というか」

ディオンは眉を下げて微笑み、ランティスはまた茶をすする。

ティーカップをソーサーの上にそっと置くと、「クラリス」とランティスが名前を呼んだ。