「やあ、クロード。どうした?」


クロードとクラリスのやり取りを知らないランティスは、いつもと同じように笑顔で声を掛ける。


「急ぐので失礼だが敬語は省略させてもらう。派遣していた哨戒班からの連絡があった。詳しくは資料にまとめてあるが、状況はよくない」


厳しい顔をするクロードに、ランティスは「そうか」とクロードの持っていた資料を受け取る。


「ご苦労だったと、哨戒班に伝えてくれ」

「ああ」


クロードはそれからクラリスの方を見た。鋭い視線で、それだけで身が凍るようだった。


「ランティス、また茶をその者に頼んだのか」


ランティスは「ああ、そうだよ」と頷く。


「彼女の茶は格別だからな。おかげで仕事も捗って助かっている」


嬉しそうな表情をするランティスに、クロードは厳しい表情をした。


「些かお戯れが過ぎるのでは?」


頭を下げたまま、クラリスは目を見開いた。


「…何を言いたい?」


少し、ほんの少し、ランティスの言葉の温度が下がったように感じた。それはほんの少しだけど、けれど確かなことで、執務室に緊張が走る。


「仮にも国王陛下たる者が特定の女性と懇意にしていると噂が出回れば、困るのはお前だ、ランティス。それも貴族や王族の娘ではなく、下級使用人など」


正気の沙汰ではないと、言い切らないものの、それが言いたいのだろうことはクラリスにも分かった


「つまり、クラリスと親しくするなということか? 親しくするもなにも、彼女は茶を淹れる仕事をしているだけだ。何も疑われるようなことはない」