国王陛下の極上ティータイム



「名前は、言えません」


さすがに黒の騎士団団長クロードだとは言えなかった。口にするのも恐ろしくて、その勇気すらなかった。


「変なところでクラリスは優しい」とブランは溜息を吐くと「クラリス」ともう一度名前を呼んだ。


「お前が誰に言われたのかは分からない。そう思う輩がいることは残念だが否定できないのかもしれない。
けれどこれだけは言える。

お前は誰よりも仕事に正直なことを私は知っている。周りから非難されるようなことは今まで一度もしていないと、王宮お茶係のこのブランが証明してやれる」


だから前を向け、と言う。


「お前の茶の味がどれほど素晴らしいか知っているのは私だけではない。ランティス様も、王太后様も、ジュリエッタ様も知っている。だからお前はここにいるのだろう?」


そして立ち上がり、不安の色をしたクラリスの目を真っすぐに見つめた。


「クラリス、お前は何のためにここにいる?」


自分が何のためにここにいるのか。

そう問われて浮かぶのは一つだけ。


「茶を淹れるため、です」


王宮に来てからそれは一度も変わったことがない、自分がここにいる理由、意味、価値。すべきこと、できること。

それはこれからもきっと同じ。ここにいる限り、変わらないこと。


「ならば、茶を淹れろ。他のことは考えなくてよし」


ブランはそれだけ言うとまた椅子に座って雑誌を広げた。