慌ててクラリスは振り返る。そこには厳しい目をしたクロードが自分を見つめていた。

「…左様にございますが、何か」とクラリスは尋ねる。お茶係の自分に黒の騎士団団長が何の用事か皆目見当もつかない。

するとクロードは「お前は確か、オルレアン伯爵家から来たと言っていたな」と言い出した。

何を聞かれているか分からないまま、「左様にございます」と答えた。


「どうにも理解できない。お前のような娘が城に来て陛下と親しくしている理由が。オルレアン伯はお前を城に送り込み、陛下と仲良くさせることで権力でも手に入れようとしているのか」


クラリスは怒って「違います!」と反論する。


「オルレアン伯爵はそのようなことなど微塵もお考えになっていません!」


「そうか?権力を欲しがるのが貴族だろう」


クロードの言葉は確かに真実だ。しかしそれはオルレアン伯爵には当てはまらない。旦那様だけはそうは考えない。そのような方ではないと、クラリスはよく分かっていた。


「権力を手に入れようとするなら、まず自分の娘と婚姻関係を結ぶと考えるのが普通です。田舎の出であるこんな娘、しかしも取るに足りないお茶係など、駒に使うわけがありません!」


するとクロードは意外にも「だろうな」とすんなりと頷いた。


「聡明なオルレアン伯がこんなずさんな手を打つはずがない。しかもオルレアン伯は伯爵家の中でも上位の家柄。今さらさらなる権力を求めて動かないだろう。仮に動いたところで利益より危険のほうがずっと多い。賢明な判断だ」

クラリスは分からなかった。なぜ違うと分かっていながら自分に問うたのか。クロードの真意が掴めない。