「りょ、料理長に、菓子を聞いてきます」


その場から逃げ出すようにクラリスはそう言い放つとその場を後にした。


茶室から外回廊に出て、深呼吸をしても顔の熱は引かない。鼓動も大きなままだ。

クラリスは気づいてしまった。分かってしまった。その原因も、理由も。

だから大きく溜め息を吐き出した。よりにもよって、なぜ、自分が。そんな気持ちでいっぱいだ。

貴族なんて大嫌いだった。すぐに自分よりも上の立場の者にすり寄って、下の者には横柄な態度をとる。身分が下だというだけで、見下してひどい扱いをもする。

貴族同士の対立や駆け引きは特に、話を聞くだけでもうんざりしていた。しつこくて、泥沼で、関わりたくない見たくもないと思っていた。

貴族の中でも好きなのはオルレアン伯爵くらいで、他の貴族とは仕事で関わることも嫌だった。

それは王族も同じこと。

王族は貴族よりずっと身分が高い。だからこそセレスティーナ姫のように、傲慢な態度をとる者もいる。

貴族社会はそれが許され、まかり通るような歪んだ世界。金と権力に支配された、どうしようもない世界だ。


自分はこんな世界には決して居たくないと思っていた。


それなのに、どうして、よりにもよって、初めて恋をしたのがランティスだったのだろう。