手紙が届いた翌日、クラリスは王宮に向かうことになった。旦那様の馬車をお借りすることになり、旦那様や奥様、コレット侍女長までもがお見送りに来てくださるという、とても手厚い待遇だった。

「いいか、く・れ・ぐ・れ・も!国王陛下に無礼がないように!」

「かしこまりました」

冷汗をかいて必死に訴える旦那様に、クラリスはいつも通りに答える。

「お前のことだ、いつも落ち着いているし冷静であるし、決してヘマはしないだろうと思っている。仕事に関しては文句の付けようもないし、茶も超一品だ。

しかしだな!

お前は愛想というものがないのだ!私はそれを心配しているのだ!」

いくら旦那様が訴えても「はあ」としかクラリスは答えない。クラリスとしては正直でいる方が正しいのだと思っているため、愛想を良くするというはクラリスにとって考えられないことだったのだ。

それを知る奥様とコレット侍女長は、こればっかりはどうにもならないだろうと互いに顔を見合わせて半分諦めていた。


「旦那様、もう出発のお時間でございます」


馬車を操る馬借が遠慮がちに旦那様にそう伝える。

「愛想をよくしろ!」と訴え続けた旦那様も時間には勝てず、「くれぐれも!くれぐれも失礼のないように頼むぞ!」と大きな声で言うことしかできなかった。

奥様は旦那様の行動が無駄であるだろうなと半分呆れたような笑顔でクラリスに優雅に手を振り、コレット侍女長は「しっかりやるんだよ!」と旦那様のように大きな声でそう言いながら大きく手を振る。

クラリスは「行って参ります」と馬車の窓から顔を出して手を振ると、まっすぐ前を見据えた。