「どうしたら君は振り向いてくれるんだろうね」

「そんなことより国政のお勉強でもなさってくださいよ」

「クラリスは厳しいね」と苦笑いをするランティスを一瞥していると、「失礼致します」と低い声が聞こえて誰かが執務室に入ってきたらしかった。


慌てて振り返ると黒色の軍服を着た体格の良い男性がいた。眉間にしわを寄せ、常に周りを警戒しているような表情をしている。

身にまとう冷静な雰囲気と精悍な顔立ちに、色恋とは無縁のクラリスさえも惹きつけられるように視線を奪われた。

ランティスも美形なのだが、どちらかと言えば綺麗に整えられていて繊細ささえ感じるような美しさだ。しかし彼は男性らしい逞しさを感じる力強いかっこよさがある。

軍服の上からでも分かる、鍛え抜かれた肉体。鋭い眼光。ランティスとは異なる夜の闇のような短い黒髪。

きっとランティスと年はそう変わらないだろうに、ランティスとは全く似ても似つかない。

クラリスはこの男性が一体誰なのか、思い出そうとしていた。この城の中で働く人は大体覚えたつもりだった。顔を見れば名前が分からなくともどこで働いているのかは分かるくらいには覚えた自信があったのに。

けれど彼はクラリスが一度も見たことのない服装と顔を持っている。

クラリスの視線を感じたのか、男性はクラリスの方に振り返ると鋭い視線で睨みつけた。さすがのクラリスとはいえ震えあがってしまうほど、恐ろしい目だった。

しかしランティスだけはそれを一切気にすることなく、いつもの笑顔で話しかけるのだった。


「やあ、クロード。調子はどう?」