「あまりクラリス殿を困らせないでくださいよ」とたしなめるような言葉をランティスに言うのは、薄ら笑いを浮かべたディオンだった。


「クラリス殿も仕事があるのですから」


「それは分かっているよ」とランティスは言うのだが、分かっているならそんな発言をするなと心の中で毒ついた。

それからクラリスは執務室の机に茶を持っていく。差し出すとランティスが「何のお茶?」と尋ねるので「ジルダのストレートです」と答えた。


「起き抜けのものと同じくらい渋めに淹れました。それを飲んで目でも覚まして寝言もやめてください」

「え、俺の発言って寝言扱いなの?さすがにひどくない?」

「それほどあなたの発言が面倒くさいってことなのでしょう」とディオンは追加の資料を机の上に置いた。

「面倒くさいって、ええ? クラリス、本当に?」

そう尋ねるランティスにクラリスは顔も向けることなく淡々と作業をこなす。

「え、無視?」と尋ねてもクラリスは何も答えない。

面倒くさい発言ばかりする主人と話したくないと思う心は人間として正しいだろうとクラリスは思った。無礼だと言われようが、ここで発言をするよりはマシだとさえ思った。

ランティスはクラリスの態度に辟易しながら呟く。


「俺はきみとお話していたいんだけどなあ」


クラリスにはこの発言が聞こえていたが敢えて無視をして「私には仕事があります故、失礼いたします」と頭を下げた。