なぜ自分などがこの場に呼ばれているのか分からないまま、クラリスはコレット侍女長の隣で身を固くして佇む。


「今日はとても良い時間を過ごせましたわ」

「王太后様にそのようにおっしゃっていただけて光栄にございます」

穏やかに微笑む王太后様に旦那様が頭を深く下げる。


「クラリス」


突然王太后様に名前を呼ばれたクラリスは驚いて返事をする。

「は、はい」

コレット侍女長も、奥様も旦那様まで驚いた顔をしてクラリスと王太后様の顔を見比べていた。


「あなたの茶、とても美味しかったわ」

「光栄にございます」


クラリスは頭を下げる。こんなに光栄なことがあってよいのかと身に余る幸せをひしひしと感じていた。


「あなたの茶をぜひ国王陛下や王女にも味わってほしいの。今度王宮で振舞ってくれないかしら」


クラリスは顔をあげ驚いて目を見開く。旦那様も奥様もコレット侍女長も目を見開いて王太后様を見つめた。


「ぜひあなたに来てほしいの。クラリス」


「覚えておいてね」とにっこり微笑んだ王太后様は、そのまま馬車に乗って王宮に戻られた。

その姿が見えなくなるまで見つめながら、クラリスは呆然と立ち尽くしていた。

王太后の発言も何もかも、今起きたことの全てが信じられず、また理解することもできなかった。

だからクラリスはきっと王太后様のご冗談なのだと、世辞なのだと、そう思うことにした。とてもありがたいお言葉をいただいたのだと、そう思うことにして考えるのをやめた。


しかし数日後王宮からオルレアン伯爵家のクラリス宛に手紙が届いた。


それは茶を淹れるために王宮に来てほしいという王太后様からの命令だった。