裏庭には、誰もいなかった。
吹きすざむ風だけが、虚しく枯れ葉を空中に舞わせている。

やっぱり、私を誘き出す為の罠だったのだと思い、辺りに気を張った。


けれど、そこから10分経っても20分経っても何も起こらない。

私は不思議に思って、踵を返そうとする。
その瞬間。


「お待たせ、未麻ちゃーん。ちゃんと待てが出来るなんて、偉いねぇ?」


ニタニタと気色の悪い笑みを零した男が、目の前に立ちはだかった。


「せ、せんぱいは?」

「そんなに警戒しなさんな。寺門にはちーっとばかし借りがあるもんでね。今何人かでそのお礼をさせてもらってんのよ」


ニタニタと笑う、その男の瞳には私の全身が映っている。

まるで値踏みをさせれているような、そんな気持ちになって、ゾッとする。
それのお陰で、私は後ろにじりっと後退るような格好になってしまった。


「おっと。逃げんなよ。仔猫ちゃん?寺門が生きて帰れるかどうかは、あんたに掛かってんだからな?」


後退った分、いや、それ以上に距離を詰められて、私は思わず視線を逸した。

その様子がおかしいのか、それとも楽しいのか、男はゲラゲラと品のない笑い声を溢して、私の顔を覗き込んだ。