なんで、こう…誰も、せんぱいの事をちゃんと見ようとしないんだろう。
なんで、あんなに優しいせんぱいをちゃんと受け入れようとしないんだろう…。


私は、とぼとぼと廊下を歩きながら、溢れそうになる涙を、瞬きをすることでなんとかやり過ごした。


「私のことを考えれば…かぁ…」


教室に戻って、誰に言うわけでもなくそう小さく呟くと、さっきせんぱいのことをひそひそと言っていた内の1人が、私の方に寄ってきた。


「前原ー」

「…何?」


必然と、顔が強張る。
だって仕方ないでしょう?
さっきまで自分の愛しい人のことを悪く言っていた人間に、笑顔を向けられる程、私は大人じゃないのだから。
それに気付いたのか、彼は戸惑ったように苦笑いを作りながら、少しシワシワになったルーズリーフを差し出してきた。


「…そんな怖い顔すんなよ。コレ、名前忘れたけど、ナントカっつーせんぱいから前原に渡せって言われたんだけど…」

「…誰?」

「や。そこまでは…ただ、やけにお前と親しそうな感じだったから、受け取っといた」

「そう…ありがとう」


訝しげな顔をして、それを受け取って、そのシワシワのルーズリーフを開いた。


そこには、定規か何かで書いたのか、奇妙にズレた文字で、

「寺門監禁。助けて欲しければ放課後裏庭に1人で来い」


とだけ書かれている。

こんな、ドラマでしか見たことのない脅迫文に、私の血液はサァーっと足元から引いていくようだった。