「それで…だな。前原。お前は寺門と交際してるのか？」


どこか、言葉を選ぶような、探りを入れるような先生の言葉に、きゅっと口唇を結んで、静かに頷く。
それを見た先生は、少しだけ薄くなった髪を掻いてから、また言葉を選ぶように、私の方を見つめてこう言った。


「恋愛に関しては、それは個人の問題だから、いいんだ。けれど、相手は札付きの悪だぞ？何も晴嵐の中で優等生の部類に入るお前が、あんな奴と付き合うことはないんじゃないのか？…もしかして、何か弱みを握られているとか…」


先生の一方的な言い分に耐えられなくなって、私は叫ぶようにして、先生の言葉を遮った。


「そんなことは一切ありません！これは、私の意思です。せんぱいは、私の嫌がることはしませんから」


きっぱりと言い切った私に、先生は面食らったような顔をする。
それでも、すぐに表情を固くして、私へと諭すように言葉を続けた。


「前原。お前はそう思ってるかもしれないが、向こうはどうなんだ？ちゃんとお前のことを考えてくれているのか…？思っているなら、こんな風に問題を起こしたりしないんじゃないのか…？」

「それは…」


私は、ぐっと拳に力を入れた。
こんな風に、何も知らない人達に、私とせんぱいのことをとやかく言われたくない。
真実は、私達の間で揺れていれば、それでいい、のに…。


「…とにかく、だ。お前は少し寺門との付き合い方を考えなさい。これはけして脅しじゃない。お前の為なんだ…いいね？」


先生はそれだけ言うと、もう用はないとばかりに「授業に戻りなさい」なんて言って、私から目線を逸した。


私は、悔しくて悔しくて、先生の頭を一発叩きたくなるのを必死で堪えて、「失礼しました」と小声で言うとその場を後にした。