そんな呟きは、丁度教室に入って来た数学の先生の号令で掻き消される。
こんなにも、丸ごと思考を持っていかれる程、薫せんぱいに溺れている事に自分でも驚く。
それと同時に、それが酷く心地良く思っている事にも…。
私がそうしてる間に、薫せんぱいがどんな事を思っているかなんて知る由もなく。
そう、神谷せんぱいとこんな会話がなされている事も知らずに…。
「うぃーす、薫ー…」
「あぁ?なんだよ、迅」
「なに、お前?なんでそんなに機嫌悪いわけ?前原関係?」
「…なんでもねぇよ」
「んたこたねぇだろーよ?そんな顔して。お前、通常の100倍くらい顔怖いよ?」
「るせぇよ、殺すぞ、迅」
「あー、怖い怖い…てか、そういや前原、今朝手首に包帯巻いてたな」
「……」
「…なーるほど。そゆことね…んじゃま、どーすんの?」
「未麻には言うなよ?」
「へいへい…けど。高いぜぇ?」
「村上のカレーパン」
「よし!乗った!」
なんとなく、不穏な予感。
与えられた数学の問題に頭を悩ませながらも、私はなんとかやり過ごす。
絶対に、薫せんぱいは人を傷つけたりしない…。
というよりも、私のせいで傷付いて欲しくない。
「…せんぱい、大丈夫だよ、ね?」
小さくぽつりと呟いてすぐに。
隣の席の子に、答え合わせをしようと声を掛けられ、慌てて薫せんぱいへの思考を停止した。
この悪い予感が、どうか的中しませんように。
私の知らない所で、何も悪い事が起きませんように…。



