せんぱいは、私を自分の背中に回してから、ジリジリと相手と距離を詰めていく。

その殺気にも似たオーラに、完全に3人は飲まれていた。


「まず、どの骨からイって欲しい?鼻か腕か、それとも腹か…どこでもいいぜ?一発でやってやるよ…」



ポキポキと、せんぱいの拳が鳴った。
それを見て、3人の顔が引きつっていく。



「…て、寺門、悪かったよ…っ。そんなに熱くなんなって、な?」

「そ、そうだよ。なぁ、寺門、こんなんゲームだって…」

「そいつもすぐに返したんだから、も、もういいだろ?」



距離を詰められた3人は、その分後ろへ後退り降参とでも言ったように両手を上げた。



「…許さねぇって言ったら?」

「そ、そんなこと言うなって…な?」

「人のモンに手ぇ付けといて、許して下さいなんざ、考えが甘ぇんだよ……ちっ。面倒くせぇ。おとといきな」



そうせんぱいが言うか言わないかの内に、3人はバラバラに教室から逃げていく。


せんぱいは、その後姿を暫く見つめてから、私の方を向いた。


「すまねぇ…俺のせいで怖い思いさせたな…それに…」


スッと流れるような仕草で私の手を取ると、ちゅ、と小さな音を立てて手首の痣にキスを落とした。


「傷付けさせねぇって約束、守れなかった…」


せんぱいの瞳が、切なげに揺れる。
私は、その瞳を見付けて首を横に振った。


「せんぱいはちゃんと守ってくれました!私、私…っ」


そこまで言って、上手く言葉が出ず、その代わり涙が零れたのに気付いたのは…せんぱいの指がそれを拭ってからだった。