ぱたん


そんな事を考えていると、隣の部屋のドアが開いた。


まだ始業10分前。
誰が来たのだろうかとそちらに向かえば…。


「おはよう、綾小路。今日も早いな」

「…社長おはようございます。"今日は"お早いんですね」

「人聞きの悪い。今日も、だろう?」

「いいえ?"今日"は、ですよ」

「はは。綾小路は相変わらず手厳しいな」

「そんなことありませんよ」


相手は、この部屋の主、基、社長の前野要人だった。
私は素っ気なくそういうと執務室とクラウドしてあるパソコン画面に向かってしまう。
それ以上の会話はまるで必要ないと言わんばかりに。
手厳しいのは、この身を守る為だ、とは口が裂けても言えない。

この、私の斜め前に流れるような所作で座る男…いやいや、社長の前野要人は、女にとことんだらしない、と聞く。

幸か不幸か、今の所私は口説かれたり、強引に誘いを受けたりはしてないけれど。
どうやら、女の影は後を絶たないようだった。

ちらりと、視界の端に彼をとらえる。


秘書を続けて早3年。
彼の香りに、他の物が混じっていれば、それくらいは分かるというもんだ。

あぁ、だけど、最近はそういうことがなくなったかもしれない。

どういう風の吹き回しか…まぁ、私には関係ないことか…。