「…何が拒絶だって?」


そんな不安定な感情を持て余してる中、その声は私の虚を突いて、背後からまるで抱き締めるようにして聞こえてきた。


…本当に、抱きしめるように。


「…要人社長…」

「ん…?なんだ?」


そらぶいた、声。
私は眉間にシワを寄せる。
低くなる声は、この場合勘弁してもらおう。


「…いい加減、セクハラで訴えますよ?」

「どうして?」


どうして、と聞くのか。

この男は。

ちゃっかりしっかりと人の腰に手を回しておいて?

イライラする。
この無礼者!と、お姫様さながら叫んでやろうかと思ったけれど、そこはやはり大人なんだから、と自分を窘める。


「手。今すぐどかさないと、大声出しますよ?」

「じゃあ、その声が出ないように、塞いでしまおうか?」

「………」


その口ぶりに、元々の膨らんでいたイライラは臨界点と突破した。


バカにされてる。
悔しい。


そう思ったら、すぐにそれが行動に出てしまってた。
あ、やばい…そう思う気持ちとは裏腹に。


がつんっ


「…っいて!」

「当たり前ですよ。ヒールでつま先踏んだんですから」

「~~…。綾小路、少しは手加減してくれよ」

「嫌です」


ふいっと視線を逸らし、私は彼の傍から離れて、デスクに散らばった書類をまとめて自分の席へと戻った。