雄也が昼の買い物に行く前に毎日ごはんを差し入れしていることを知ってから、その役は私に移行されてしまった。代金をもらっている気配はないので、その理由を尋ねると、いつものように『余計な詮索はするな』とたしなめられてしまったので聞けずじまいになっている。

「和豆さーん!」

さっきより大きな声で呼んでから、周りを見渡す。外観よりもさらに古く見える内部は、板張りの床も色が黒に近く染まっていて今にも割れそうに見える。空気が淀んでいるように思えるのは錯覚かもしれないけれど、長居したくなる場所ではない。

それに、そう思ってしまう理由はもうひとつあって……。

─ギシッ。

床を踏み鳴らす音が聞こえたかと思うと、その理由が顔を出した。

雄也と同じく作務衣に身を包んだ和豆さんは、雄也よりもずいぶん年上に見える。剃り落とした髪に今日も無精ひげを生やしていて、たぶん三十歳は超えていると思われる。

熊のように大きく、筋肉に覆われたがっしりした体格に似合う色黒な肌は、一見すると怖い人にしか見えない。

見た目はこの上なく男らしく、日本男児そのもの。

なのに……。

「イヤだ、詩織ちゃんじゃないの。気づかなかったわよぉ」

クネクネと体をゆすって、「おほほほ」と、笑いながら走ってくる彼に今日も逃げたくなるのです。

「今日のごはんです」

お盆を手渡す私に、

「あら、今日も冷たいのねぇ」

と、いかつい顔で言うものだから体をのけぞらせてしまう。

「ごはんは温かいままのはずです」

「イヤだ。詩織ちゃんが冷たい、って意味よ」

「そんなことありません。ただのお使いで来ただけですから」

この強烈なキャラは近所のおしゃべりおばさんに近いものがある。最初はニコニコと話をしていたのだけれど、その話は途切れることがなく永遠に続いてしまうのだ。

ということで、仕事中の対応についてはあくまでビジネスライクに接することにしている。でないと、時間が何時間あっても足りないから。

「他人行儀じゃないの。さみしいわ」

人差し指を唇に当てて見てくる。その上目遣いはやめてほしい。

「他人ですってば。……それじゃあ」