落ち着くんだ、私。

……意識なんてしちゃダメ。

香織と本田くんが上手くいったからって、そんな私の身にまで何か起こるなんて有り得ない。

だから、裕治くんその手を離して。

言いたいことを口にしようとする。

でもそれよりも先に裕治くんが動いた。

ふわりと漂う甘い匂いに包まれると、温もりも伝わってきた。

何が起こっているのかよく分からなくて、体を動かそうとするけれどそれすらできなくて。

ドクドクと響き合う鼓動は、私のものじゃなくて目の前から聞こえてくる。

背中に回された腕がぎゅっと力を入れた。

耳元で感じる吐息に、ようやく抱きしめられているというこの現状を理解する。

理解しても、どんどんと頭の中は真っ白になっていく一方でしかない。

息が出来ないような息苦しさに、足の力が入らなくなっていく。