「柚月……ちょっとだけ、甘えても……いい?」

「う、うん」

「ありがと」


肩に顔をうずめたまま、彼方は動かなくなってしまう。


「……ごめん。柚月に、好きって気持ち……押し付けようとしてた。本当にごめん」

「彼方は悪くないから……謝らないで」

「柚月が帰ってこないなんて今まではなかったから……凄く不安になって、いてもたってもいられなくてっ」


彼方を一人にしない。私は今までそれだけは守ってきた。

だけど今日、初めて、私は彼方を一人にした。


「なんだか、柚月が俺の傍から離れていっちゃうような感覚になって……っ」


絞り出すようなその声は、彼方がどれだけ不安で苦しいのかを表しているようだ。


「だから、押し付けてでも自分の傍にって、思っちゃって……ごめん、もう絶対にしないから」


彼方を不安にさせてるのは私だ。

彼方を苦しめてるのも私だ。


謝らなきゃいけないのは、

私の方だ。


「大丈夫なんて言っておいてこんなんじゃカッコ悪いよね……本当に、ごめんね柚月。……じゃあ、そろそろ教室に戻ろっか」


私から離れる彼方の制服の袖を、待ってと言うように、私は掴んだ。