「柚月」


優しい声で、名前を呼ばれた。



「大丈夫だから」



……そうか、大丈夫とはこういうことか。


「すっげーよお前! ほとんど満点じゃん!」

「うん、あり……がと。うん、勉強頑張った、から」


彼方はもう大丈夫。


だってもう、あの頃の彼方とは違うんだから。

いつまでも子どもじゃないんだから。


ぎこちなくクラスのみんなに受け答えする彼方を、ただじっと見つめる。

そこには、私が入る隙間なんてこれっぽっちもなくて……


「……柚月? ぼーっとして……どうかした?」

「へ? あ、ううん別に」


「なんでもない」と、私は返すことしかできなかった。