「ぁ、あー! もうこんな時間だー! そ、そそそろそろ帰ろうかなー!」
……うん、我ながら苦しい演技だ。
だけど、とりあえず今は一刻も早く混乱する頭を落ち着かせたくて、「アハハー」と下手くそに笑いながら立ち上がる。
それに、もうこの甘すぎる雰囲気に、私は堪えられそうもなかったのだ。
「えっと、今日はありがとね。映画、凄く面白かった」
「ん……それなら、よかった」
玄関に行く私に付き添うように、彼方が後ろに続く。
「そうだ柚月、忘れ物」
「え?」
私は手ぶらで来たはずだけど、いったい何を忘れて……
チュッ



