「どうかこれを受け取ってくれ」
鬼龍院くんが彼方に手渡した物、それは私たちがよくミーティングしていた、空き教室の鍵だった。
「……鬼龍院、これ」
手渡された彼方が、どうすればいいか分からないとでも言うように、その場に立ち尽くす。
本当に、何で鬼龍院くん、空き教室の鍵なんて……
「後夜祭が始まるから、ほとんどの教室の鍵をかけ生徒会で管理することになっている。これはちょっと、なんだ、借りてきただけだ。君に預けるよ一色クン」
「……そうか、分かった」
彼方のその言葉を聞いて、鬼龍院くんは私の方を向いた。
「近衛クン、ここなら誰かが来る心配もないし、ゆっくり二人で話ができるはずだ」
「鬼龍院くん、まさかそのために……」
「君のためになにかできることはないか。考えた結果、こんなことしか思い付かなかったが……良かったらこの鍵を有効活用してくれたまえ!」
ニパッとした笑顔には、私と鬼龍院くんが初めて話した時のような、前みたいな威圧感はどこにもなかった。



